今話題のステンレスについて化学メーカー研究職が解説します

科学

どうも、化学メーカーで研究を仕事にしているみきしゃです。

最近、モデルナワクチンにて異物が混入したというニュースが話題となりました。その異物について分析を行った結果、最終的に「ステンレス」であると、判断されていました。

混入の経路として考えられているのは、設備の部品や注射針の欠損などと言われています。どちらにせよ体内に入る可能性があるというのは、正直怖いですよね。

一方で、じゃあステンレスって本当に危ないものなのかというところまで本当に調べられた方は少ないのではないでしょうか。

というわけで、今回の投稿では「ステンレス」というものをちゃんと理解したいという方のために、わかりやすく紹介していきたいと思います。

この記事を読むとこんな事がわかります。

  • 「ステンレス」がどのような物質か
  • 「ステンレス」が体に与える影響

それでは説明していきます!

ステンレスってどんな物質?

ステンレスとは鉄(Fe)が50%以上、クロム(Cr)が10.5%以上含まれる合金であり、耐腐食性に優れています。ここでいう腐食性というのは、サビつきやすさを表し、耐腐食性が優れているというのはサビつきにくいということです。

この耐腐食性は、合金に含まれているクロムにより得られる性質です。仮に鉄だけだと、水にぬれた時に一部がイオンとして溶け出してしまいます。このイオンが酸化され酸化鉄となり、これがサビの原因となります。

ではクロムが入るとどうなるか…?

答えとしてはクロムが鉄よりも先に酸化を受けることで、酸化クロムの薄い膜を合金の表面に形成します。これは溶液や酸に触れても解けきることが無いので、合金の表面がサビにくくなるのです。ちなみに合金を覆う薄い膜は「不働被膜」と呼ばれており、このように酸化被膜に覆われている状態を「不働態」と言います。

また一口にステンレスと言っても実はとんでもない種類(200種類以上)が存在しています。それらの違いを決める要素としては含まれる金属の種類と割合です。先ほどの説明で鉄とクロムが含まれると説明しましたが、他にもニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)、さらに銅(Cu)などが含まれているステンレスも実在します。

今回のモデルナに含まれたステンレスはどんな金属が入っているの?

モデルナへの金属片混入のルートとして考えられているのは、製造機械の部品か注射針の破片と言われています。製造機械だと種類の推測をするのが困難であるため、この記事では注射針の破片が異物として混入したと仮定したいと思います!

注射針に使用されているステンレスにはSUS304というものがあります。頭のSUSはステンレスのことを表しており、304は数多く存在する種類を分けるための番号です。具体的に話すと、SUS304は加工性、耐食性に優れるオーステナイト系(他にマルテンサイト系、フェライト系がある)のステンレスで組成は鉄、クロム、ニッケル、マンガン(Mn)などが含まれています。クロムは20%程度、ニッケルは10%程度、マンガンは2%程度含まれており、他元素は1%にも満たない割合で含まれています。

それでは、この合金が金属が体に入るとどのような影響を及ぼすことが予想されるかについて説明します。

結論から言うとニュースでも言われているように、影響を与える可能性は極めて低いと思います。ステンレスはその性質から心臓の人工弁や関節置換などにも使用されており、人体に及ぼす影響が小さいとされています。先ほど説明しましたが、不働態なのでなかなか金属イオンが溶け出さないため、溶出するとしてもかなり微量で、人体に大きな変化を与えるほどにはなりにくいのです。

ですが、これだけの説明では他の資料と一緒になってしますので、各種イオンが体に取り込まれたときにおこる影響について説明したいと思います。

まずクロムについてです。ステンレスに含まれているクロムは三価クロムであると報告されており、これは毒性が低いことが知られています。加えて、酸化して反応しにくい不働態となるので、影響を与える可能性は薄いと考えられます。

続いて、ニッケルについてです。「ニッケルは毒性が強いって聞いたことがあるよ!」という熱心な化学マニアの方もいるかもしれませんが、毒性の強いニッケルはテトラカルボニルニッケルという化合物であり、これは金属ニッケルに一酸化炭素(CO)が反応しないと合成されない。さらにある程度の高温やCO濃度が必要なので、体内中で合成されるということは考えにくい。そのため、毒性についても考えにくいと予想できます。

最後に、マンガンです。こいつは少し毒性ありそうですが、含有割合が2%以下という点から小さな金属片に含まれる量は極めて少ないので、毒性を発現するのは現実的ではないと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。かなり詳しくステンレスがなにか、体に与える影響について説明させていただきました。とりあえず、ニュースでも言われているように問題は無いと思いますが、体の組織を物理的に傷つける可能性はあると思うので、混入はしないよう最大限の品質管理をしていただきたいものですね!

今回はこの辺で失礼したいと思います。また次回の投稿でお会いしましょう!

バイバイ!

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